コンクリートの降伏曲げモーメントについて

コンクリートの降伏曲げモーメントについて質問があり投稿しました。
道路橋示方書では、鉄筋の引張応力度が降伏強度に達した際に、コンクリートの圧縮応力度が設計基準強度の2/3に達する場合には、コンクリートの圧縮応力度が設計基準強度の2/3に達するときの抵抗曲げモーメントを、降伏曲げモーメントの特性値として扱うということになっています。
この場合、コンクリート上縁のひずみを2/3σckのときのひずみとして、中立軸を仮定して圧縮側鉄筋と引張側鉄筋のひずみ、軸力を算出して合力がゼロになる場合の曲げモーメントを求めればよいかと考えましたが、この考えで検討すると鉄筋が降伏ひずみを超えて降伏曲げモーメントが通常より大きく算出されます。
例えば圧縮鉄筋の軸力を無視したりといった、何か上記以外の条件があれば教えて頂けないでしょうか。

コメント

#9983

 道示コンクリート橋編(文献1)5.2.8軸方向力又は曲げmomentに対する軸方向鉄筋の配置
(3)RC構造について
1)引張鉄筋比を0.005以上とする.
2)引張側の軸方向鉄筋量が釣合鋼材量以下と成る.
の原則に拠るとconcreteの圧縮強度が(2/3)σ_ckに達するより前に鉄筋の引張応力度が降伏強度に達します.
 此の原則に拠らず鉄筋を配置した仕様等では,鉄筋の引張応力度が降伏強度に達するより前に,concreteの圧縮応力度が(2/3)σ_ckに達します.
 即ち,此れ等の仕様は,異なります.
 検討構造が,新設ならば原則に拠り鉄筋降伏先行型にできます.
 既設で補強するならばconcrete圧壊型脆性破壊を防ぐ為に(2/3)σ_ckに制限し道示に拠りconcreteの圧縮応力度と歪との関係を2次曲線近似したか,鉄筋を完全弾塑性(降伏歪み以降で
は降伏強度は一定)modelとしたかを確認され,圧縮鉄筋が降伏するかで判定した限界状態式を適用(文献2)し,前記で解決しなければ,仕様を提示されれば判断できると考えます.
文献
1)(公社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅲコンクリート橋・部材編,平成29年11月,pp.87-89,123-127
2)吉川弘道:鉄筋コンクリートの解析と設計,丸善

#10041

 貴殿は此の後も質問され,「設計計算例」に載らず,圧縮鉄筋について道示では釣合鋼材比式で考慮し図で示されず,RCの専門書では考慮し,私は道示の記号に極力合わせ,
以下に導出を試みた.(もし,簡略に圧縮鉄筋を考慮しない場合,A_s'=0とする.)
 引張鉄筋が降伏強度の特性値σ_sy[N/mm^2]に達し,concreteの圧縮応力度σ_c[N/mm^2]
 σ_c=0.85σ_ck(ε_c/0.002)(2-ε_c/0.002)(1)
が(2/3)σ_ckに達しない場合,平面保持の仮定に拠る歪みの適合条件式は,
 ε_c=ε_sy・y/(d-x)(2)
 ε_s'=ε_sy・(x-d')/(d-x)≤ε_sy'(3)
 此処に,ε_c,ε_c',ε_s':y,圧縮縁でのconcreteの歪みの大きさ,圧縮鉄筋の(圧縮)歪みの大きさ[1],ε_sy:引張鉄筋の降伏歪み=σ_sy/E_s,E_s:鉄筋のYoung係数[N/mm^2],y:中立軸から圧縮縁
方向の距離[mm],x:圧縮縁から中立軸迄の距離[mm],d,d':引張・圧縮鉄筋の有効高さ[mm]
1.concreteに作用する圧縮合力C_c'[N]は,
 C_c'(x)=∫b_i・0.85σ_ck{500ε_sy・y/(d-x)}{2-500ε_sy・y/(d-x)}dy(積分区間:0~x)(4)
 此処に,b_i:yでの断面幅[mm],E_c:concreteのYoung係数[N/mm^2]
 長方(矩)形断面の場合,b_i=b(一定)で,
 C_c'(x)=0.85bσ_ck∫{10^3・ε_sy・y/(d-x)-2.5・10^5・ε_sy^2・y^2/(d-x)^2}dy(積分区間:0~x)
 =0.85b・σ_ck{5・10^2・ε_sy・x^2/(d-x)-(5/6)・10^5・ε_sy^2・x^3/(d-x)^2}
 =425b・ε_sy・σ_ck{x^2/(d-x)-(1/6)・10^3・ε_sy・x^3/(d-x)^2}
2.ε_s'≤ε_sy'(此処に,ε_sy’:圧縮鉄筋の降伏歪み=σ_sy'/E_s)と仮定すると圧縮鉄筋の圧縮力C_s'[N]はC_s'=A_s'・σ_s'=A_s'・E_s・ε_sy・(x-d')/(d-x)(5)
 此処に,A_s':圧縮鉄筋断面積[mm^2],σ_s':圧縮鉄筋の圧縮応力度[N/mm^2]=E_s・ε_s'
3.引張鉄筋の引張力T[N]はT=A_s・σ_sy=A_s・E_s・ε_sy(6)
 此処に,A_s:引張鉄筋断面積[mm^2]
4.力の釣合条件に拠り,
 T=C_c'+C_s'(7)
 A_s・σ_sy=∫b_i・0.85σ_ck{500ε_sy・y/(d-x)}{2-500ε_sy・y/(d-x)}dy(積分区間:0~x)+A_s'・E_s・ε_sy・(x-d')/(d-x)(7')
 b_i=b(一定)の場合,
 A_s・σ_sy=425b・ε_sy・σ_ck{x^2/(d-x)-(1/6)・10^3・ε_sy・x^3/(d-x)^2}+A_s'・E_s・ε_sy・(x-d')/(d-x)
 A_s・E_s・ε_sy=425b・ε_sy・σ_ck{x^2/(d-x)-(1/6)・10^3・ε_sy・x^3/(d-x)^2}+A_s'E_s・ε_sy・(x-d')/(d-x)
 A_s・E_s(d-x)^2=425b・ε_sy・σ_ck{x^2・(d-x)-(1/6)・10^3・ε_sy・x^3}+A_s'・E_s・(x-d')(d-x)
 6A_s・E_s(d-x)^2=425bσ_ck{6x^2・(d-x)-10^3・ε_sy・x^3}+6A_s'・E_s・(x-d')(d-x)
 425bσ_ck{(6+10^3・ε_sy)x^3-6d・x^2}+6(A_s+A_s')E_s・x^2+{-2・6A_s・E_s・d-6A_s'E_s(d+d')}x+6A_s・E_s・d^2+6A_s'・E_s・d・d'=0
 850bσ_ck(3+500ε_sy)x^3+2{3(A_s+A_s')E_s-1275bdσ_ck}x^2-6E_s{2A_s・d+A_s'(d+d')}x+6E_s・d(A_s・d+A_s'・d')=0(7'')
 xに関する3次方程式をFontana-Cardanoの式又はNewton法で解く.
5.xを(3)に代入し仮定条件も満たしているか検討する.
 (2)に於いて圧縮縁y=xでの歪み
 ε_c|y=x=ε_sy・x/(d-x)(2')
及び求めたxを(1)に代入して下式の仮定条件を満たすか検討する.
 σ_c=0.85σ_ck{500ε_sy・x/(d-x)}{(2-500ε_sy・x/(d-x)}≤(2/3)σ_ck
何方も満たせば6.に進む.
 満たさなければ,圧縮縁が(2/3)σ_ckに達する歪みε_cを(1)に拠り,
 (2/3)σ_ck=0.85σ_ck(ε_c/0.002)(2-ε_c/0.002)
∴1=2.55(500ε_c)(1-250ε_c)∴2.55・500・250ε_c^2-2.55・500ε_c+1=0∴ε_c=[2.55・250-{(2.55・250)^2-2.55・500・250}^(1/2)]/(2.55・500・250)≈0.001071
と求め,
 ε_s'≤ε_sy'の場合,C_s'=A_s'・E_s・0.001071・(x-d')/x
 ε_s≤ε_syの場合,T=A_s・E_s・0.001071・(d-x)/x
 ε_c=0.001071y/x(2'')
∴ C_c'(x)=∫b_i・0.85σ_ck(0.5356y/x)(2-0.5356y/x)dy(積分区間:0~x)
として4.(7)に戻る.
6.中立軸に関するconcrete圧縮応力度の断面1次moment[N・mm]は,
 C_c'(x-y_c)=∫b_i・0.85σ_ck{500ε_sy・y/(d-x)}{2-500ε_sy・y/(d-x)}y・dy(積分区間:0~x)(8)
 此処に,y_c:concreteの圧縮力中心から圧縮縁迄の距離[mm]
 b_i=b(一定)の場合,
 C_c'(x-y_c)=0.85bσ_ck∫{10^3・ε_sy・y^2/(d-x)-2.5・10^5・ε_sy^2・y^3/(d-x)^2}dy(積分区間:0~x)
 =850b・ε_sy・σ_ck{(1/3)x^3/(d-x)-(5/8)・10^2・ε_sy・x^4/(d-x)^2}
∴y_c=x-2{(1/3)x(d-x)-(5/8)・10^2・ε_sy・x^2}/{d-x-(1/6)・10^3・ε_sy・x}(9)
7.降伏曲げmoment[N・mm]特性値
 M_yc=C_c'(d-y_c)+C_s'(d-d')(10)
文献
岡田清・伊藤和幸・不破昭・平澤征夫:鉄筋コンクリート工学,pp.41-42,1998.3